【特集】「競り合い」勝負学
攻めの気持ちを貫く
斉藤 仁(柔道家/国士舘大学大学院・体育学部教授)

――競り合いを制する力は一体なんだと思いますか。
斉藤 「気」と「間」ですね。相手を上回る気迫で攻めて、戦いの間合いを制したほうが勝ちます。
 気迫は行動となって表れます。試合で相手と組み合ったとき、相手に圧力をかけて攻めるんです。
 そして相手を気迫で上回ると、自然のうちに自分の間合いで戦えるようになります。反対に相手の間合いになると、こちらがどんな技をかけても、上手くかからないんです。
 この「気」と「間」によって勝敗が決した象徴的な試合がありました。

――教えてください。
斉藤 2006年の全日本柔道選手権大会決勝です。
 この試合は、私の教え子であるアテネ・オリンピック金メダリストの鈴木桂治と、当時19歳で大会初出場の石井慧が対戦しました。
 試合は終始、鈴木が押し気味で進めました。そして試合終了まで残り数秒というとき、組み合っている最中にもかかわらず、鈴木がほんの一瞬、会場の時計で試合時間を確認したんです。

――ほんの一瞬!?
斉藤 そう。1秒にも満たないほんの一瞬です。そのとき私は“桂治、一体何をやっているんだ”と思いました。その瞬間です。鈴木の体がほんのちょっと後退し、石井の体がスッと前に出たんです。
 そして次の瞬間、石井の大内刈りが決まりました。その技が有効のポイントとなり、そのまま試合は終了。石井が大逆転で、史上最年少の全日本優勝を果たしたんです。

(P.13 一部抜粋)